文化人に愛される街

文化人に愛される街

まちの活気と人々の熱気が渦巻き、さまざまな文化が生まれている地・吉祥寺。エリアが放つ摩訶不思議なパワーには並々ならぬものがあり、それに心引かれた多くの著名人が好んで居を構えている。

「井の頭公園」入り口
文化人も歩いたであろう「井の頭公園」入り口の小径

若者のまちという印象の強い吉祥寺だが、意外にも日本文壇で名を馳せた文士たちの心もつかんでいるようで、近代日本文学のディレッタントの目を引く”通”の文筆家の名が連なっている。

たとえば、吉祥寺の歴史ある商店街「ハーモニカ横丁」の命名者でもある、文芸評論家の亀井勝一郎。小規模の店舗がひしめくように並ぶ姿をハーモニカの吹き口に見立てて命名したところからもうかがえる斬新な視点を持ち、戦前の国文学の一大流派となった文芸誌「日本浪曼派」の創刊メンバーとしても活躍した。

ハーモニカ横丁
亀井勝一郎が命名した古き良き商店街「ハーモニカ横丁」

50年近くの長きにわたってしたためられ、世界有数の長編小説として知られる『死靈』の作者・埴谷雄高も、吉祥寺に長く腰を落ち着けた一人。没後10年の節目である平成19年には『死靈』の構想メモが見つかり、文壇を色めき立たせたのは記憶に新しい。

ほかにも「七つの子」「シャボン玉」などが有名な童謡作詞家・詩人の野口雨情や、『厭がらせの年齢』『親鸞』などの流行作品を著し、武蔵野市の名誉市民にもなった丹羽文雄など、そうそうたる文学の巨匠がゆかりの文人として数えられ、アカデミックな吉祥寺という一面を証明している。

吉祥寺のシンボル・井の頭公園は、境を接する三鷹に居していた太宰治や山本有三、武者小路実篤などもたびたび訪れていた。彼らお気に入りの散歩コースであった水と緑の豊かな公園が四季ごとに織り成す景色は、文豪たちの創作意欲を静かに、強く刺激していたに違いない。

井の頭公園
季節ごとに美しい姿を見せる閑静な井の頭公園

現代文学だと『ベッドタイムアイズ』『風味絶佳』の山田詠美、「孔雀警視」シリーズの志茂田景樹などが吉祥寺とゆかりある人々といえる。ちなみに、山田詠美の近作『無銭優雅』は吉祥寺が舞台だ。

また、若者に人気のドラマ・演劇を生み出す脚本家”クドカン”こと宮藤官九郎も入れてもよいだろう。西荻窪から吉祥寺の間で彼に遭遇したという目撃談は後を絶たず、著名人も気軽に闊歩できる吉祥寺の地が持つ”気安さ”みたいなものを証明している。

吉祥寺サンロード商店街
多くの人出で賑わう「吉祥寺サンロード商店街」入り口

まちにあふれる吉祥寺のサブカルチャー的魅力が多くの漫画家たちにも愛されているのは有名だ。よく知られるのは、『ドカベン』などの国民的作品を描いた水島新司、著作に『恨ミシュラン』『ぼくんち』『毎日かあさん』などがある西原理恵子、多芸多才で漫画評論家としてもファンの多いいしかわじゅん、『まことちゃん』『漂流教室』などの特異な作品を生み出し、本人自身も際立った個性を持つ楳図かずおなど。

おしゃれな少年漫画の草分け的存在といえる江口寿史なども、吉祥寺の住人としてよく知られている。代表作の『ストップ!! ひばりくん!』でも、吉祥寺と思われる街並みの絵柄が随所に出てくる。

“吉祥寺駅5分 2DK 築33年”のフレーズで知られるのは、少女漫画の大御所・大島弓子。各方面に愛読者の多い『綿の国星』には、「ちきじょうじ」駅なるものが登場する。ちきじょうじ駅の隣駅は、「昼荻」(西荻窪)と「夜たか」(三鷹)。モデルは吉祥寺駅だといっても差し支えないだろう。平成20年には原作の映画「グーグーだって猫である」が公開。この舞台も吉祥寺となっている。

吉祥寺西公園
「グーグーだって猫である」のロケ地にもなった「吉祥寺西公園」

吉祥寺を舞台にした作品は、ほかにもある。たとえば、テレビドラマでも一世を風靡した学園漫画『GTO』(藤沢とおる・著)は、吉祥寺にあるとされる”東京吉祥学苑”の中等部が舞台。校舎のモデルとなっているのは東京都立武蔵高等学校という話だ。かつて若者であった現在の大人たちのバイブル的存在『ろくでなしBLUES』も、同じ校舎がモデルといわれる。なお、こちらでの名称は”帝拳高校”となっている。

平成20年に大ヒットしたテレビドラマとしても人気の高い野球漫画『ROOKIES』(森田まさのり・著)。練習シーンで頻繁に出てくるグラウンドは、吉祥寺に近い成蹊高校・大学のそれだといわれている。

これらから察するに、漫画家にとって吉祥寺には、学校から導き出される”若者”のイメージがあるのかもしれない。それらの作品の多くがカタルシス的な感傷を含むところを見ても、吉祥寺はたくさんの人々の”青春”の舞台として思い描かれているのかもしれない。

成蹊高校
『ROOKIES』の舞台となっているとされる「成蹊高校」の外観

本に関する人々だけでもこんなに事例が挙げられるのだから、いかに吉祥寺が魅力的な、愛されるまちであるかは推して知るべし。ほかにも俳優や歌手、スポーツ選手に政治家など、吉祥寺の出身・あるいは住まいとしている人々は枚挙にいとまがない。

多くの著名人を引きつける吉祥寺の魅力、あとは自分の足で訪ねて、歩いて、ときには寄り道なんかして、いかにこの地が素敵なまちであるかを改めて体感してみてほしい。

成蹊学園のケヤキ並木
「日本の音風景100選」にもなっている「成蹊学園のケヤキ並木」