自然から娯楽、歴史まで、徹底解剖・井の頭公園の魅力
JR中央線と京王井の頭線がクロスする吉祥寺駅の前の交差点。ここからすぐのところに、全国的にも広く知られる「井の頭公園」がある。こんなにぎやかな駅前から10分も歩けば緑豊かな大型公園が広がっているなど、にわかには信じがたい。
吉祥寺駅前のにぎわいと「井の頭公園」への案内板
井の頭公園。正式名称は「井の頭恩賜公園」。面積およそ380,000平方m、武蔵野市と三鷹市にまたがる、日本初の郊外型公園だ。開園は大正6(1917)年。徳川幕府の御用林であった井の頭池付近の林を、明治維新時、当時の東京府が池などとともに買収。のち宮内省(現在の宮内庁)の御用林となり、大正に入ってから東京市に下賜した。「恩賜公園」の名がついているのは、そうした経緯があるからだ。
四季折々、井の頭公園はいたるところで美しい自然を見せてくれる。清楚で甘い香りを漂わせる春の梅園。湖面に淡い緋色を映す桜。樹木を楽しく勉強できるように考えられたオリエンテーリング式の「グリーンアドベンチャー」などもある。
しかし、園内すべてが見どころと言っても過言ではない中で代表的な存在なのは、やはり「井の頭池」。“緑”“遊”とさまざまな魅力を持つ井の頭公園だが、やはりそのコアとなるものは“水”=井の頭池。ちなみに、この池がかの神田川の源流であることは、あまり知られていない。
井の頭公園のシンボル「井の頭池」
やがて隅田川へと合流する「神田川」はじまりの地
公園名である“井の頭”という名称は、徳川家と深い関係がある。名称の由来は2つあり、ひとつは、3代将軍・家光がつけたとされているもの。祖父の初代将軍・家康がつくった“お江戸でしょっぱな”の上水道・神田上水の水源地であったことから「上水道の水源」、井=水がめ、頭=発端、という意味を込めたという説である。
そして、井の頭”のもう一つの説は、“井=水”の“頭=一番”。「最もおいしい水、美しい水」という意味があるという説。事実、池の北側に湧水「お茶の水」があるが、これは江戸初期の慶長11(1606)年、家康がこの井の頭池の水を美味と気に入り、茶を点てたことに名が拠っているのだ。
徳川家康が「甘露かな」と気に入っていた水「お茶の水」
また、西側にある高台の一角は、家光が鷹狩りに出かけた折の休息地として、御殿を造ったことから「御殿山」と呼ばれ、いまもその名と雑木林を残している。
この地区からは縄文期の住宅遺跡なども見つかっており、この吉祥寺一帯が太古より暮らしやすい地であったことを証明している。そして、平安期には、関東源氏の祖・源経基が、伝教大師(最澄)が作ったとされる弁財天像を納める堂を井の頭池のほとりに造った。これが、芸術や学問全般とともに五穀豊穣を司る神を祀る「弁財天」だ。
井の頭公園を1,000年以上も見守り続ける「弁財天」
その後、平安末期に源頼朝の東国平定の願をかなえたことから改築を受けたものの、鎌倉末期の元弘の乱まで、北条泰家と新田義貞の争いで焼失するなど、多々の運命に翻弄されたが、かの家光により再建。周囲に配された石造建築物などが、いまも同地に残っている。
弁財天と石像建築物の狛犬
以降、弁財天をはじめとする井の頭池付近は、江戸の人々にとって格好の行楽地となった。そして、平成のこの世まで「井の頭池のボートにカップルで乗ると、女神である弁財天が嫉妬し、別れに至る」「別れないためには、ボートを降りた後に弁財天に参拝を」などという迷信まがいの言い伝えが残っているのが面白い。どうやら、弁財天が集めていた信仰は古今を問わず厚いようだ。
井の頭池の水面を滑るように進むボート
その弁財天がまなざしを注いでいるかもしれない「ボート場」は、手こぎタイプとスワンタイプ、サイクルタイプがあり、水の上で風を切って進む爽快感が楽しい。
ほか、北村西望の作品を見られる「彫刻館」や動物園、資料館、管理事務所がある「井の頭自然文化園」や、メリーゴーランドなどが人気を集め、先日(平成21年1月)遊具・新幹線が営業再開となったミニ遊園地「スポーツランド」など、アミューズメントパークとしての趣もたっぷり。ブランコやすべり台といったオーソドックスな遊具もある。400mトラックやテニスコートなど、スポーツ施設も完備している。こうして現在に至るまで、井の頭池をとりまくエリアは人々の気軽なレジャースポットになっているのだ。
「井の頭自然文化園」分館入り口。本館は吉祥寺通り沿いにある
実は、2001年の開館以来人気が衰えることがない「三鷹の森 ジブリ美術館」も井の頭公園の一部だ。井の頭公園は「井の頭池」「御殿山雑木林」「井の頭自然文化園」「東園」「西園」と5つのエリアに分かれており、ジブリの森美術館はその西園に位置している。
向かうまでにはいくつかの方法があるが、おすすめは井の頭池の散策路から御殿山雑木林の横を抜け、鳥たちのサンクチュアリ(聖域)となっている「小鳥の森」を眺めながら到着するというアクセス。豊かな自然が目も心も潤し、到着するまでにジブリの持つ世界観を全身で感じられるだろう。
全国から人を集める「三鷹の森 ジブリ美術館」へ続く通路
現在、井の頭公園では市民・関係団体・行政が参加の「井の頭恩賜公園100年実行委員会」を中心として、さらに魅力ある憩いのスペースにするためのプロジェクトが進行中だ。平成29年の開園100周年までに「水と緑の再生」「公園を核とする街の賑わいの創出」を柱とした取り組みは、スタートから数年を経た現在、確かな効果を見せつつある。
「水と緑の再生」に基づき、井の頭池の水質浄化の向上を目指した取り組みも行われている。たとえば、弁財天あたりの水面で目にする竹のいかだ。これには、微生物など水の汚れとなるものを取り除く、炭素繊維製の浄化材が取り付けられている。炭素繊維につく微生物が池を生息地とする魚介類のえさとなり、水生生物の育成および適正化につながっていくという仕組みだ。
水質の浄化に大きな役割を果たしている竹のいかだ
これに沿うように、井の頭池などの水辺環境を考えるセミナー・ワークショップなどの開催も隆盛だ。一例を挙げると、平成21年2月28日(日)には「よみがえれ!! 井の頭池! 都市の水辺環境を考える」がテーマのシンポジウムが開催。参加無料の気軽さもあり、多くの人が関心を寄せている。
開園100年までの数々の事業を通じて、井の頭公園の水は、今後ますます美しさを取り戻していくことだろう。もしかしたら、家康が味わった茶の味をまた井の頭の地で再現され、味わうことができるかもしれない。現実になるかどうかはわからないが、それほどに水が浄化され、井の頭公園がさらに過ごしやすい公園になれば、吉祥寺にゆかりある身としてはこの上なく嬉しい。そのあかつきには、家康と同じように茶を味わい、「甘露かな」と呟いてみたいものだ。
さまざまな魅力を持つ、市民に愛される「井の頭公園」




