甘くて美味しいだけじゃない、プロのお菓子の知識と技を多くの人に

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吉祥寺は、お菓子教室と名のつくところは10軒以上あるという激戦エリア。そんな吉祥寺で、すでにお菓子教室として9年間の実績を積み重ねてきたパティシェールの杉本都香咲さん。教室を開講するにあたって吉祥寺を選んだ理由は、ご自身が10年以上住んでいたこと以外にも、エリアの魅力を感じてのことという。JR中央線や京王井の頭線など交通アクセスがよく、生徒さんの通学面でのメリットが大きいことに加え、激戦エリアであることは逆説的に考えれば、それだけニーズが多いということと判断して、開校に踏み切ったという。そこで、杉本さんに、お菓子づくりの面白さや生徒さんとのふれあい、また吉祥寺への想いや魅力を伺ってみた。
まず、吉祥寺で洋菓子教室を開講されたきっかけから伺えますか?
私は9年間、お菓子づくりのプロを養成するための専門学校に勤めていました。オーブンやミキサーといった器具はもちろん、プロ仕様のものを使ってお菓子づくりを教えていたのですが、「お菓子づくりを趣味で楽しみたい、という一般の方々にも教えられるような教室を作りたい」という気持ちが日に日に強くなっていきました。その想いを実現するために、吉祥寺の駅前のビルに、お菓子づくりの教室「MES ENFANTS CAPRICIEUX」を開講しました。もちろん、吉祥寺は競争相手が多いエリアだということは十分に分かっていましたが、製菓学校で教えた経験がある人が、一般の人を相手に教える教室は多くないため、その点が他との差別化になるかなと考えたのです。
教室のお名前「MES ENFANTS CAPRICIEUX(メ・ザンファン・カプリシュー)」とは、どういう意味なのですか?
「MES ENFANTS CAPRICIEUX」とは、フランス語で『私の気まぐれな子供達』という意味なんです。もともとは、以前勤めていた製菓学校の生徒さんが自分で考えたお菓子に付けた名前。言葉の意味と音の響きがとても愛らしいだけでなく、いつも同じようには出来上がらないお菓子の「きまぐれさ」にピッタリな名前だと思って、教室名にしたんです。
想いのこもったネーミングなのですね。教室では実際にどんな授業を行っているのでしょう。
私のベースはフランス菓子ですが、教室ではドイツ菓子、ウィーン菓子、イタリア菓子、パンづくりの授業も行っています。また、講習内容を考える上では季節感も大切にしています。たとえば、2月はバレンタインデーにちなんで、チョコレートたっぷりのウィーン菓子「ザッハートルテ」を作りました。春はイチゴがテーマです。4月には、ヨーロッパではクリスマス以上に盛り上がる復活祭があるので、その頃にはチョコレートの可愛い鶏を飾った復活祭をイメージしたイチゴのシャルロットをつくります。
ドイツのお菓子やイタリアのお菓子といっても、基本となるスポンジは同じです。ただ、それぞれの国の特徴が異なる部分については、技術的なことだけでなく、この国のお菓子がどういう風に生まれたかとか、どういう季節のイベントにつくるお菓子なのか、歴史や背景なども教えることで、私自身の知識の幅も広がっています。
お菓子屋さんであれば、季節ごとのスイーツもあるけれど、ショートケーキのような定番商品があって、それを繰り返しつくることができますが、お菓子教室の場合は毎回が違うレシピ。それだけに、教える方も毎日やることが違うんです。それがたとえ3年に1回しかやらないお菓子でも製菓学校で教えていたクオリティをキープできるよう努めています。
お菓子教室に通われている生徒さんたちはどんな目的の方が多いのですか?
私の教室には、開校当時から9年間、ずっと通って来てくれている生徒さんを筆頭に、さまざまな年代の方たちがいらっしゃいます。開校当初はどちらかというと「趣味としてお菓子づくりを覚えたい」という自分の母親の世代の方が多かったんです。とはいえ、お菓子屋さんに並べてもおかしくないお菓子づくりをきっちりと教えました。今は、カフェで働いている20代の方がお店のスイーツをつくれるようになるために受講されたり、30代のOLさんや子供の手が離れた主婦の方が趣味としてのお菓子づくりを学ばれたりしていて、教室全体では年齢の幅が広くなってきました。
それぞれの方に、入会理由を伺ってみたところ、製菓学校で10年教えた経験のある講師が一般の方たちに教えるお菓子教室は国内でも意外と少ないことを知りました。お菓子自体はつくれるけれど、どうしてそういう作業をするのかわからない時に、理論的な裏付けを教えてくれることが、他の教室との違いのようです。そのため、いろいろなお菓子教室で学んだ経験を持つ生徒さんが全体の約半数で、また、東京以外の地域からいらっしゃる方も少なくありません。
教室を運営していく上で、何か心がけていらっしゃることはありますか?
生徒さんとの対話によってでき上がる授業を心がけてきました。これからもそのスタンスで続けたいですね。また、講習後はお菓子、そしてコーヒーや紅茶で、生徒さんたちとの「寛ぎの時間」を共有する時間も大事にしたいと思っています。
また、講習中にはさまざまなアレンジも教えますが、これは勝手に変えてはいけないといった約束事はきちんと伝えるようにしています。たとえば、お菓子の甘さを控えたい時でも、デコレーションする生クリームの加減は調整は可能だけれど、スポンジのお砂糖をむやみに減らしてはダメとか。また、デコレーションするフルーツのバリエーションや、手に入れやすい素材でのアレンジなど、作るお菓子の幅が広がるようなアイディアも提供しています。
お菓子教室のほかにも数々の活動をされていると伺いましたが、どのような活動をされているのでしょうか?
その他では、東急・伊勢丹の催事出店をしています。伊勢丹は毎年、出店だけでなく店内でのレッスンも実施して、昨年もおかげ様で大変好評でした。今回は丹波の栗を取り寄せて、伊勢丹吉祥寺オリジナルとして「栗のパイ包み」を出品してみたところ、午前中に完売するほどのご好評をいただきました。また、お茶のお店にお菓子をネット販売する仕事や、結婚式の引き菓子・プティギフトなどの注文販売も行っています。さらにレストランのお菓子部門のプロデュースや商品開発、レシピ制作、技術指導など、お菓子づくりに関することを幅広く行っています。
地方でのお仕事も多いという杉本さんですが、吉祥寺ならではの地域の特徴や傾向というものはあるのでしょうか?
現在、新宿、立川とそして吉祥寺の伊勢丹の催事を担当させていただいています。新宿の伊勢丹であれば高い商品から売れていく傾向がありますが、生活に密着したエリアである吉祥寺の場合は「リーズナブルで美味しいもの」が選ばれる傾向があります。吉祥寺で大事なのは「わかりやすさ」ではないかなと私なりには思っています。「わかりやすい商品」は、誰もが愛着を持っている商品であり、親しみやすい商品。わかりやすくスタンダードである分、本当に美味しいものでなければ消費者からは選ばれません。単純だからこそごまかしがきかないんです。奇をてらわなくても、素直に美味しいものを定番として生活に取り入れてくれる環境。それが吉祥寺だと思います。吉祥寺で大人気の『小ざさ』の羊かんやおまんじゅうもそういう商品の一つと言えるでしょうね。ケーキを例にとると、シュークリームやショートケーキなど、どこにもあるけれど、どこも味が違う商品が、そういったスタンダードな商品になります。
お菓子づくり、またお菓子を通したお仕事をする上で、杉本さん自身のこだわりや今後の目標はありますか?
ある意味、ケーキは流行もあり、日本で10年、20年というロングセラーを出すのは難しいんです。「あそこに行けば、あのお菓子が美味しい」と口コミされるようなお菓子屋さんはすごいことだと思います。今後、私がお店を持つかはどうかわかりませんが、その時は、お子さんからご年配の方まで喜んでもらえるお菓子づくりをしたい。珍しい素材を使うことを全面否定はしませんが、見た目の華やかさよりは味で勝負したい。そこは譲れないところです。もちろん、いろいろなお客様に見てもらうためには、視覚的な美しさにもこだわっていきたいと考えています。それはお店の雰囲気であったり、パッケージであったり、ケーキ自体のデコレーションであったりします。そんな各地域の指向性を研究した上で視覚的な効果も考えていきたいですね。特にこれからは地方での仕事も増えていきそうなので、そういった地域ごとのマーケティングの勉強もしていこうと思っています。
最後に、杉本さんご自身と吉祥寺の関わりや、何か感じるところがありましたらお教えください。
私は杉並区の永福で育ち、一時期は大阪にも住んでいましたが、18歳くらいの時、吉祥寺に家族で戻ってきました。現在も成蹊大学のそばの北町に住んでいます。駅からすぐの場所でも割合静かで緑が多い、この吉祥寺という街が気に入っています。駅前に出れば『ロンロン』などのショッピングアーケードが充実しているので、ちょっとした買い物には全く困りません。それでいて、都会ほどゴミゴミしていないのもいいところだと思います。とにかく、生活しやすいエリアであることは間違いありませんね。さらにハモニカ横丁のような雑然とした、私にとってはちょっと大阪を思い出すようなエリアもあったり、さまざまな顔を持つ吉祥寺は魅力的な街です。
商品は、リーズナブルで、なおかつ食べ物であれば、美味しくて当たり前。とはいえ、吉祥寺は人気のエリアなので、家賃も結構かかる中、コストを抑えて美味しいものを提供する各店舗の努力は測り知れません。『ロンロン』の中にあるお魚や野菜のお店は商品の回転が良く、いつも新鮮な素材が並んでいるので、お菓子づくりのためのハーブや季節のフルーツを購入しています。もちろん、値段も安いんですよ。
そんな人気エリアの吉祥寺で、駅からガードをくぐれば、雨の日でも濡れずに1分で来ることができる距離に教室を構えられたのはとてもラッキーでした。遠距離から来てくださる生徒さんたちも教室の後は、吉祥寺でランチを食べて、その後駅ビルでショッピングして、1日中、吉祥寺を満喫してお帰りになります。吉祥寺は「何でもある街」だから、いくつもの目的を持って人たちがこの街に集まってくるのかもしれませんね。
インタビューを終えて
杉本さんは食器にもこだわっている。ジノリを中心とした、お菓子が映える白い食器。それにお菓子をのせて、生徒さんたちと味わうのだとか。味覚だけでなく、五感で美味しさを味わう。その発想はお菓子のプロならではこそ。
そんなお菓子を知り尽くした杉本さんのもとには、何と群馬、福島、山形、さらには、四国、九州から、飛行機や新幹線を使って来られる生徒さんもいらっしゃるとのこと。そのなかの、福島から通われる上級クラスの生徒さんは、還暦を超えている方で、その方自身も近所の方にお菓子づくりを教えているとか。そういった生徒さんたちの一生懸命な生き方やバイタリティも杉本さんが教室を続けていく上での原動力になっているようだ。
取材後、撮影用にご用意していただいた『ココパッション』をいただいたが、甘みと酸味の程良いバランスが絶妙!ホールでも食べてしまいそうな、上品な軽やかさ。さすが!と嘆息させられる美味しさであった。
information
MES ENFANTS CAPRICIEUX(メ・ザンファン・カプリシュー)
住所:武蔵野市吉祥寺南町2-3-15バローレ吉祥寺I 606号室
電話番号:0422-70-1373
http://m-e-capricieux.com/


